パートナーや配偶者の浮気や不倫は許せない!と感じる人もいるのではないでしょうか?
こんなに人の心を傷つけたのだから、傷害罪!それに対する罰を受けてほしい!と思うかもしれません。しかし、浮気や不倫問題は刑罰を与えるような犯罪になるのでしょうか?
ここでは浮気が犯罪になるのか、どのような法律に触れるのかについて解説していきます。
そもそも犯罪とはどういうもの?
犯罪が悪い事という認識は大体の人がありますが、そもそも犯罪がどういうものなのかわかるでしょうか?悪い事、罪を犯す事と捉えれば浮気や不倫も犯罪に含まれそうな気がしますが、そうではないようです。
法律において、犯罪とは「刑法・刑罰法規」で刑罰を与えることが定められている行為を指しています。刑法は、犯罪者に対して国家が刑罰を与えるための法律であり、検察官が「起訴」することで罪を問うことができるものです。つまり、浮気を犯罪として罪に問うには、刑法にしたがって検察官に起訴してもらわなければいけない事になります。
しかし、刑法には浮気に関する明文がなく、国として刑罰を与える権限がないため、結局のところ浮気は犯罪にはあたらず、どれほど深く傷つけられたとしても、浮気しただけでは刑罰を与えることは難しいのが現状です。
例えば、他人の財物を盗んだら、刑法235条「窃盗罪」で10年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される犯罪なのですが、他人の配偶者を盗んでも(他人の配偶者と浮気をしても)犯罪行為にはなりません。
また、他人身体を傷つけたら、刑法204条「傷害罪」で15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとありますが、他人の心を傷つけても犯罪行為にはなりません。
どちらも気持ち的には盗みや傷害の行為に感じますが、窃盗罪は客体が他人の財物に限られていますし、傷害罪も身体を対象としているので精神が傷ついても該当しません。
犯罪になる浮気もある!?
ただし、例外的に犯罪になる浮気もあります。
まず、浮気の相手が18歳未満で性行為を行った場合には、各都道府県や市町村の淫行条例(青少年保護育成条例)に違反したとして、刑事罰を受けるおそれがあります。
また、重婚(すでに結婚しているのにも関わらず他の異性とも結婚すること)は犯罪とされていて、なおかつ民法上でも不法行為にあたるため、刑法上の罰金や懲役の刑罰と民法上の損害賠償請求の両方の責任を負う可能性があります。
不倫したら犯罪になる時代もあった
現代の日本では浮気は犯罪に該当しませんが、江戸時代から昭和初期までは姦通(かんつう)罪という犯罪がありました。
姦通とは、今でいう不倫(不貞)のことを言うのですが、江戸時代には、死刑になるほどの重罪だったようです。
また、当時は自分の配偶者と肉体関係を持った相手を殺害しても罪に問われなかったほど、貞操義務が重視されていました。今では犯罪にもならなくなりましたが、昔なら殺人が認められてしまうほどのことなのです。
しかし、元々姦通罪で処罰されるのは既婚女性と関係を持ったものや既婚女性にだけで、既婚男性の姦通については処罰しないという物でした。これが、男女平等の原則に違反するという考えから、双方とも処罰するか双方とも処罰しないかが議論となり、最終的に1947年の刑法一部改正でこの姦通罪の規定は削除される事になりました。
このようにして、日本の刑法から姦通罪は無くなりましたが、不倫(姦通)が犯罪になる国や地域は現代でも存在しています。
以下の国では今も浮気は姦通罪になります。
・アメリカ合衆国の一部(21州)
・フィリピン
イスラム国家では姦通に対して特に厳しく、石打の刑という死刑になります。
今は犯罪にはならないが、不貞は不法行為になる
現代の日本で浮気(不倫)は犯罪にはならないというのは説明しましたが、では法律上何のお咎めも無いのかと言われればそうとは限りません。
浮気に不貞行為があれば、民法上の不法行為となる可能性があります。
詳しく解説していきましょう。
民法とは?
世の中にはさまざまな法律がありますが、その中で私たちの生活と密接しているのが「民法」です。
個人間の財産関係(売買・賃貸借・不法行為など)と家族関係(夫婦・親子・相続など)に関する規定から企業対個人、企業同士の財産権の取り扱いに関する規定など、多岐にわたる範囲で私人間の権利や義務の関係性をまとめた基本的な法律です。
簡単に言えば、私たちの日常生活について定められた法律というような感じです。
たまに刑事事件や民事事件という言葉を聞く事があるかもしれませんが、家庭内の揉め事、たとえば離婚の話し合いなどはこの民法上の問題であるケースが多いため、刑事事件を主に扱い民事不介入を原則としている警察に相談しても無駄だと考えられます。
ただし、家庭内の問題であっても、暴力(DV)などがあれば暴行罪や傷害罪に繋がることもあるため警察が介入することもあります。
不貞行為とは?
不貞行為とは、おおよそ不倫と同義語と捉えると良いと思いますが、法律的には『配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係をもつこと』を指します。
不倫という言葉は法律用語では無いので、法的には不貞行為と言います。
この不貞にあたる行為としては
・性交渉(性器の結合)
・性交類似行為 (口淫、手淫、前戯、裸で抱き合う)
などが挙げられ、以下の行為は不貞にあたりません。
・手を繋ぐ
・食事をする
・キスをする
・抱きつく
・卑猥な画像や動画の送り合い
・本番行為のない風俗店の利用
過去の判例から見ると不貞行為は異性との性的関係に限定され、同性間の不倫は基本的に不貞行為として認められていませんでした。
しかし、2021年に東京地裁で行われた裁判で『同性同士の性的類似行為のある関係でも婚姻生活の平穏を脅かす行為として不貞行為に該当する』との判決が下されました。
この判決が下されたことにより、同性同士の性的関係に関する考え方が今後変わっていくだろうという司法の見解もあります。
不法行為による慰謝料請求ができる
配偶者に刑事罰を与えたいと考えていた場合は残念なお知らせとなりますが、浮気(不倫)は犯罪ではないので刑法による懲役や罰金などの刑が科される事はありません。
しかし、不法行為となるので損害賠償の請求ができます。
しかも、刑事罰で与えられる罰金は国に支払う事になるので被害者の手に渡る事がありません。一方、民法における損害賠償金は被害者救済のため被害者へ支払われるものとなります。
そう思えば、罰金を払わせるよりも慰謝料を払ってもらえた方が気分がスッキリするかもしれません。
では、慰謝料請求の法的根拠はどうなっているのか見ていきましょう。
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を違法に侵害した者はこれによって生じた損害を賠償する責任を負う」というものが慰謝料請求の法的根拠となります。
つまり、わざともしくは不注意で性行為を行った場合、それは他人の権利を侵害する行為なので、生じた損害を賠償しなければいけないということなのです。
慰謝料というのは損害賠償の一つで、精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
さらに損害賠償は大きく「債務不履行に基づく損害賠償」と「不法行為に基づく損害賠償」に分けられ、損害は「財産的損害」と「精神的損害」に分けられます。
この精神的損害に対する賠償が慰謝料と称されているということになります。
配偶者に浮気(不倫)をされるとほとんどの人が酷く精神的に損害を受けるため慰謝料が請求できるのです。
慰謝料を請求するための条件
配偶者に不貞行為があったとしても、慰謝料請求するための条件を満たしていなければ法的に慰謝料請求ができません。
どのような条件があるか代表的な4つの条件について詳しく見ていきましょう。
1.婚姻関係にある(婚姻関係が破綻していない)
まず一つ目の条件は、夫婦が婚姻関係にあるということです。
これについては、婚姻届けを役所に提出しているのが原則なのですが、婚姻届けはまだ提出できていないが結婚式の話も進んでほぼ婚姻関係にあるようなカップルや籍は入れていないけれど家計を一緒にしている内縁の婚姻関係なども含まれます。
よって、婚姻関係や婚姻と同等の関係ではないカップルの場合これに該当しませんので、いくら相手に浮気をされていても慰謝料請求でき無いと考えられるでしょう。
また、夫婦が法律上は婚姻関係にあっても、長期にわたる別居中(概ね5年以上)であったり、すでに調停を起こして裁判所で離婚の話を進めているなど、夫婦の関係が破綻しているとみなされる間に起こった不貞行為は不法行為にあたらないとして、慰謝料請求できない可能性があります。
ただし、別居や離婚調停をしていても双方が離婚を希望しているわけではなく、どちらかが一方的に婚姻の継続を望んでいる場合は完全に破綻しているとは言えないということから慰謝料請求ができるケースもあります。
そのように、判断が難しいケースもありますので、慰謝料請求できるかどうか迷った時は弁護士などの専門家に相談する事をおすすめします。
2.自由意思にもとづく不倫であったこと
浮気(不倫)相手に慰謝料請求するときも、「自由な意思にもとづいて性的関係を持ったこと」が一つの条件となります。この「自由な意思」というのは、自らの考えで進んで行動するといったような意味合いを持っており、脅迫や強姦されたのであれば自由な意思であったとは言えません。
たとえば、職場の上司がその地位を利用して無理に性行為をしてきたというケースの場合、脅迫されたと判断され慰謝料請求が認められない可能性もあります。しかし、多くの場合は断ろうと思えば断れるもので自由意思が制圧されていたとまではいえない可能性があります。
もし、本当にレイプのように無理やり襲われたようなケースでは強制性交罪という犯罪に遭っていたことになりますので、犯した側は刑事罰を受ける可能性があります。
3.故意・過失があったこと
不貞行為の際に、既婚者であることを知っていたのであれば故意であったということになり、知らなかったとしても注意して知ろうとすれば既婚者だという事を把握できたのであれば過失があったとされます。東京地裁で行われた裁判の過去判例では、出会った場所がお見合いパーティーだったにもかかわらず、住所・氏名・年齢さらに学歴までも虚偽であったことから、既婚者だという事を認識するのは困難だったと認められ、故意や過失が無いとの判断から慰謝料請求が認められなかったケースもあります。
また、故意があって浮気(不倫)した場合と過失で浮気(不倫)した場合では過失であったケースの方が慰謝料請求の金額が減額される傾向にあり、できるだけ慰謝料を払いたくないor減額させたいと考える不倫相手が「既婚者だとは知らなかった」と主張してくることもあります。
4.時効が成立していない
不法行為による慰謝料請求には時効があり、原則として被害者またはその法定代理人が損害事実や加害者を知った時点から3年間と定められています。
配偶者の不貞行為に気が付いたら早めに請求した方が良いでしょう。
浮気(不倫)の慰謝料の相場は
慰謝料請求したら、いくらくらい支払ってもらえるのかも気になるところです。
慰謝料というのは、受けた被害に対する賠償金となるため、決まった金額はありません。
浮気(不倫)の慰謝料請求においては、婚姻期間や不倫の期間がどれくらいだったか、後の夫婦関係がどの程度悪化したかなど様々な要素によっても変動します。
相場としては値幅も広く『数十万円~300万円程度』となるケースが多く見られます。
また、以下のような要素がある場合は慰謝料が高額になる傾向です。
・不倫が原因で別居や離婚に至った
・不倫期間や婚姻年数が長い
・夫婦間に小さい子供がいる
・不貞行為による女性の妊娠や出産
・反省が見られない など
他にもさまざまな要素によって金額が変動します。
過去の判例によれば1000万円の慰謝料が認められたこともあります。その際は長期間の不倫に加え暴力(DV)などの要素もあったため高額になったようです。
精神的苦痛を受けたからにはそれにふさわしい金額を受け取りたいものですが、請求相手が不貞を否認する事もあります。そういった事態に備え、不貞があったという確実な証拠を押さえてから慰謝料請求しましょう。また、他にも慰謝料に影響しそうな事があれば調べておきたいところです。
まとめ
浮気や不倫はほとんどのケースで刑法に違反する犯罪とはなりませんが、不貞行為がある事により民法上の不法行為になるため慰謝料請求できます。
犯罪と不法行為、どちらの方が悪いと比べる事はできませんが、どちらも人としてやるべきことではありません。
もし配偶者が不貞行為を行ったとすれば、その身勝手な行動でどれだけ人が傷ついたかを理解させるためにも、慰謝料を請求しましょう。
しかし、不貞を認めず慰謝料請求から逃げようとすることがよくあるため、確実な不貞の証拠を掴んでから話し合いをするようにしてください。
慰謝料請求や浮気の証拠を掴むことに不安がありましたら、早めに弁護士や探偵などの専門家に相談する事をおすすめします。